銀ラメのハイヒール

第一章 

  ドアの前に立つのが仕事だった。

 ドアの鉄板は銃弾にも耐えられそうな厚さと強さで武装している。打ち破れるなら打ち破ってみろ、と言わんばかりだ。戦後に建てられた住宅整備公団の建物だが、(戦時)を決して忘れてはいない。緑色に塗られているが戦争の空気を記憶し、強い兵隊の皮膚に覆われている。壁はコンクリートが地のままむき出し、部屋の号数、入居者の名前を与えられ、ドアの足元には郵便受けが口を開けている。

  まるで刑務所、あるいは収容施設であるが、ここで生き生活している

 自分に襲撃隊の兵隊にでもなったような緊張が走るが、ゲームをする気分にでもならなければ家族ともどもメシは食えないし、長続きはしない。

百棟もある住宅公団の建物は途方もない容量だから(モグラ叩き)を一巡するには一ヶ月はかかるだろう。

 階段ばかりの、しかも縦歩きの建物。エレベーターがあって横に廊下が長い場合は楽だ。エレベーターで最上階まで上がり、廊下を歩いて各部屋を訪問し階段を降りていけば良いが、これだと一階から五階まで歩いて階段を上り、四階、三階、二階、一階と降りながら左右の部屋を訪問することになる。一棟には四個の穴、つまり出入り口があるので一棟につき五回も下から上まで歩いて上り下りすることになる。

 百棟の容量が待っているが、始めるしかない。右手の人差し指を鉤方に構え、銃口をドアに向けた。

足元になにかを感じた。

見ると、一匹の猫が居て、わたしの足首に顔を擦りつけていた。

虎の縞模様のはいったふつうの猫だ。首輪は付いているが、毛並みは汚れている。

脚で軽く追い払おうとしたが、一緒に階段を上ってくる。

何のつもりだろう?と考えたが、仕事にかかった。

最初の、鉄製のドアの前に立った。。

緊張と不安が走り、次に落ち着いてくる。

相手の人生に、いきなりDVDの針を落とす。インターホンを押す。

見知らぬ人間の人生の一瞬に触れることになる。

返事も、気配も返ってこないが、いつものことだ。